はじめに…
日本のエネルギー自給率は約6%程度です。エネルギーのほとんどで化石燃料を使用し、また海外からの輸入
に頼っています。エネルギーの需要が高まれば、エネルギー資源の価格上昇と資源の枯渇という問題が想定
されます。また化石燃料の使用には、CO₂の排出を伴います。CO₂は地球温暖化の要因とされています。
1、エネルギーの基本
2、エネルギーの分類
- 1次エネルギー・・・「石炭」「石油」「天然ガス」「原子力」など。
- 2次エネルギー・・・1次エネルギーを加工、変化させて取り出すエネルギーのこと。
- 最終エネルギー・・・消費者が最終的に使用するエネルギーのこと。
- 直接エネルギー・・・生活などで、直接的に消費するエネルギーのこと。
- 間接エネルギー・・・製品の製造や輸送など、間接的に消費するエネルギーのこと。
3、エネルギーの課題
エネルギーの作る面(供給)と使う面(需要)での課題がエネルギー事情を理解する上で重要です。
使う側が無限の資源と考えて使用すれば、限りのある1次エネルギーはいずれなくなります。
自然の恵みを新たなエネルギーとして使用することができれば、日本そして世界の環境が大きく変化
するでしょう。
現状ほとんどのエネルギー源を海外からの輸入に頼っています。海外においてエネルギー供給上の何らかの問題が発生した時、日本は自律的に資源を確保することが難しいという根本的な脆弱性を持っています。
4、環境保全「接続可能な低炭素社会の実現」
1次エネルギー面ではいずれ枯渇するとみられる化石燃料(「石炭」「石油」「天然ガス」)を使用する
エネルギーから非化石エネルギーへの転換が必要です。
また現在の化石燃料の高効率化、クリーン化への技術革新も必要な課題です。
2次エネルギー面では地球温暖化の原因の1つともいわれているCO₂排出量の削減です。
5、地球温暖化
1906年から2005年までの100年間で世界の平均気温は0.73℃上昇し、平均海面水位は17
cm上昇したそうです。
世界の平均気温の上昇の理由に、二酸化炭素(CO₂)をはじめとする人類文明による温室効果ガスの増加に
よってもたらされた可能性が非常に高いようです。
※日本は現在、温室効果ガスの排出量は発電部門において増加しています。
1988年設立された地球温暖化に関する科学的側面をテーマにした国連組織「IPCC」の評価報告・・・。
- 2007年度、第4次評価報告書では21世紀末までに世界の平均気温は1.1℃~6.4℃上昇し、
平均海面水位は18~59cm 上昇すると推定しています。 - 2014年度、第5次評価報告書では、現在のペースで温室効果ガスの排出が続けば、21世紀末には人々
の健康や生活系に「深刻で広範囲にわたり後戻りができない影響が出る恐れ」が高まり、
被害を軽減する対応策にも限界が生じると予測しています。また温暖化の原因は人為の可能性が極めて高い
(95%)としています。 - 21世紀末の気温上昇予測は、有効な対策を取らない場合、約2.6℃~4.8℃上昇し、海面水位上昇予測
は有効な対策をとらない場合、最大約82cm上昇すると予測されています。
6、温暖化による影響
「2℃以上」の気温上昇で穀物生産に悪影響を及ぼし、4℃以上の気温上昇で食糧安全保障に大きなリスクが 出ます。
「2℃未満」に抑えるには、CO₂の総排出量を約2兆9千億トンにとどめる必要があります。しかし、すでに
約1兆9千億トン のCO₂が排出されていて、残りの排出可能量は約1兆トンです。
2011年の世界のCO₂排出量は350億トンであり、このペースが続くと30年足らずで許容量の上限に
達してしまいます。
※人類は産業革命以降化石燃料「石油、石炭、天然ガス」を大量に燃焼し、利用したことによりCO₂が急激に
増加しました。
温室効果ガスは温室のガラスと同じ働きをするので、地球全体を温室のようにしてしまうのです。
7、再生可能エネルギー
太陽、風、水、土、森林と自然にはたくさんの再生可能エネルギー資源があります。
「太陽光発電」「風力発電」「小水力発電」「地熱発電」「バイオマス発電」「太陽熱利用」があります。
このエネルギーにより発電しますが、日本の年間発電量に対して水力を除く再生可能エネルギーの発電電力量は平成25年度でわずか2.2%しかありません。
8、安定供給
「必要な時に、必要な場所へ、必要な量を、可能な限り適切な価格で供給する」こと。
・量の安定化では電力使用量の変動に見合った発電量の確保が必要です。
・場所の安定化では、集中電源から分散電源の必要性が重要です。東日本大震災では集中電源での発電供給が ストップし、停電状態が続きました。分散型電源は各地域ごとに発電設備を備えて、集中電源に頼らない
電源供給体制を構築する考え方です。
エネルギー基本計画(平成26年度閣議決定)
※「エネルギー基本計画」は少なくとも3年に1度の頻度で内容について検討を行い、必要に応じて変更を
求めています。
※2003年に最初の計画、2007年に第2次計画、2010年に第3次計画が策定されました。
※気になる部分を抜粋しました。
1、再生可能エネルギーの位置づけ
安定供給面、コスト面では課題があるが、温室効果ガスを排出せず、国内で生産でき、エネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で、重要な低炭素の国産エネルギー源である。
2、再生可能エネルギーの政策の方向性
系統強化、規制の合理化、低コスト化等の研究開発などを着実に進める。
それぞれに異なる各エネルギー源の特徴を踏まえ、新たなエネルギー関連の産業・雇用創出も視野に入れ、
経済性等のバランスの取れた開発を進めていく必要がある。
3、水素:「水素社会」の実現
将来の2次エネルギーでは、電気、熱、に加え「水素」が中心的な役割を担うことが期待される。
「水素」は取扱時の安全性の確保が必要であるが、利便性やエネルギー効率が高く、利用段階で温室効果ガスの排出がなく多くの優れた特徴を有している。
4、各部門における省エネルギーの強化
業務・家庭部門において高い省エネルギー効果が期待されるのは、建築物・住宅の省エネルギー化である。
これまで、エネルギーを消費する機械器具を対象としたトップランナー制度は対象外であったが、1998年の省エネ法の大幅改正で、目標基準を定める「トップランナー基準」が導入されました。
こうした省エネルギーの取組を、建築物・住宅分野の建築材料もトップランナー制度の対象に加わりました。
(断熱材など)
エネルギー消費機器も引き続きトップランナー制度を拡大していく。
住宅については2030年までに新築住宅の平均でZEH・ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの実現を目指す。
5、エネルギー供給の効率化を促進するディマンドリスポンスの活用
これまで、電気を使う側(需要家)が多く電力を使用する時間帯(ピーク時間帯)では電気を作る側(供給者)の調整電源により供給量を確保し対応してきたが、今後は使う側(需要家側)が使う電力量を抑制することで
需給バランスを確保することが可能となります。こうした作る側の電力量に応じて、使う側の電力量を抑制するディマンドリスポンスの第一歩として時間帯に対応して有意な電気料金の価格差を設けることで、電気を使う側が消費パターンを変化させる方法があります。
しかし、既に産業界は積極的に活用し、操業体制を夜間にシフトさせるなどの取組を進めていますが、一般の消費者にはまだ十分に浸透していません。
そのため2020年代早期に、スマートメーターを全世帯・全事業所に導入するとともに電力システム改革による小売事業の自由化により、さらに効果のある多様な電気料金設定が行われることで、ピーク時間帯の
電力需要を有意に抑制することが可能となる環境を実現します。
さらにディマンドリスポンスにおける次の段階として、使う側の電力量の抑制を定量的に管理する方法が
考えられています。こうした方法は、電力会社と大口需要家のあいだでの受給調整契約という形で従来から
存在しているが、こうした取組みを欧米のように社会に広く定着させるためには、今までの方法の効果や価値
などについて、電力会社などの関係者のあいだで、認識を共有することが必要です。
このため、複数の需要家のネガワット(節電容量)を束ねて取引するエネルギー利用情報管理運営者
(アグリゲーター)を介すなどして、小売事業者や送配電事業者の要請に応じて需要家が需要抑制を行い、
その対価として小売事業者や送配電事業者が需要家に報酬を支払う仕組みの確立に取り組んでいきます。
具体的にはこうしたディマンドリスポンスの効果や価値を実証し、定量的に管理できるようにしていくとともに需要抑制の測定方法等のガイドラインを策定します。
さらに、需要量の抑制によって生じるネガワットの取引を円滑化することで、需要家側での需要量の抑制を
より効果的に行うことが可能となることから、電力改革システムを着実に進めることによって、こうした
ディマンドリスポンスを使った新たな事業形態を導入しやすい環境を整備し、需要を管理することで、発電容量を合理的な規模に維持し、安定供給を実現します。
6、固定価格買取制度の在り方
2012年7月に固定価格買取制度が開始されました。固定価格買取制度は、再生可能エネルギーに対する
投資を、のちに回収できる可能性を与えることで、投資の加速度的促進を図るものであります。
引き続き、安定的かつ適切な運用をすることによって、固定価格買取制度のリスクを低減する制度運用を
目指します。さらに、再生可能エネルギー源の最大の利用の促進と、国民負担の抑制を、最適な形で両立
させるような施策の組合せを構築することを軸として検討、必要な措置を講じます。
7、電力システム改革
広域系統運用の拡大、小売・発電の全面自由化および法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保を柱とする大胆な改革に取組むことを2013年4月に閣議決定されました。
改革の目的
- 全国大で系統運用を可能とする。
- 需給調整機能を強化し、電力の安定供給を確保する。
- 小売、発電の全面自由化や電気の先物取引に係る制度の整備。
- 競争的環境にほど遠かった市場をより競争的なものとする。
- 電気料金を最大限抑制する仕組みが働く構造を構築していく。
- 送配電部門の中立性を法的に担保し、電力供給の基盤となる送配電網を整備する。
- 送配電網整備のための投資回収がより適切に行われるとともに、分散型電源の活用が進みやすい環境を実現
していく。 - 柔軟性のある安定供給体制を確立していく。
8、電気をさらに効率的に利用するためのコージェネレーションの推進や蓄電池の導入促進
(1)コージェネレーションの促進
熱と電力を一体として活用することで高効率なエネルギー利用を実現する。
省エネルギー性に加え、再生可能エネルギーとの相性の良さもあり、家庭用もふくめたコージェネレーションの導入促進を図るため、導入支援策の推進とともに、燃料電池を含むコージェネレーションにより発電される電気の取引の円滑化等の具体化に向けて検討します。
(2)蓄電池の導入促進
利便性の高い電気を貯蔵することで、いつでもどこでも利用できるようにする蓄電池は、再生可能エネルギーの導入を円滑化することができます。
※従来の用途に加え、車載用、住宅・ビル・事業用などの定置用の用途への広がりがあります。
スマートグリッドについて(スマートとは賢い、グリッドとは送電のこと)
1、スマートグリッド
・「電力を供給側、需要側双方で能動的に最適化できる送電網」
・電力、通信のインフラを融合し、最適化を行うことや今までの集中型電源と今後の分散型電源の最適化を
行うこと。
・IT(情報技術)など、新技術を活用して、分散型電源の発電を含んだうえで電力の需要量と供給量をより細か く把握し、電気の流れを細かく制御することで、電力システム全体の効率化を図る仕組み。
・スマートグリッドに必要な機器の標準化領域は「HEMS」「スマートメーター」の2つの領域での標準化
です。
2、ネットワークルート
スマートグリッドの概念には3つのネットワークルートがあります。
- Aルート・・・電力会社向けで、電力会社とスマートメーターをつなぐネットワーク。
- Bルート・・・需要家向けで、自分の家のHEMSとつなぐネットワーク。
- Cルート・・・小売事業者やサービス事業者向けで電力会社、ガス会社とEMS、アグリゲーターなどの
エネルギー管理事業者などをつなぐネットワーク。
エネルギーマネジメントシステムについて
1、エネルギーマネジメントシステムの概要
・ICT(情報通信技術)を活用して、エネルギー使用状況を一元的に管理しながら、エネルギー使用を最適化
してエネルギーの効率的な利用を促進するためのシステムのこと。
2、エネルギーの原料の段階から消費者が消費するまでの全過程のつながり
① 環境にやさしく経済的なエネルギーを作り、供給する。
・主な政策は・・・固定価格買取制度(FIT)
・主な商品、キーワードは・・・太陽光発電、風力発電、高効率火力発電
※再生可能エネルギーの固定価格買取制度で、発電電力を一定期間、固定価格で買い取る。)
② 市場でのエネルギーの効率的な流通をする。
・主な政策は・・・電力システムの改革(広域系統運用・電力小売自由化・発送電分離)
(地域を超えて電気を融通する広域系統運用。)
(各家庭で電力会社や料金メニューを自由に選択できる、電力小売全面自由化。)
(電気を作る「発電事業」と電気を送る「送電事業」と電気を届ける「配電事業」のうち、「発電事業」と
それ以外の事業を分離する、発送電分離。)
・主な商品、キーワードは・・・スマートメーター、スマートグリッド、クラウドサービス
③ エネルギーを効率的に消費する。
・主な政策は・・・改正省エネ法、スマートシティ実証事業、HEMS、蓄電池、EV(電気自動車)などの
補助金。
・主な商品、キーワードは・・・HEMS(住宅)BEMS(ビル)MEMS(マンション)FEMS(工場)
SEMS(店舗)定置用リチウムイオン蓄電池、トップランナー家電、LED照明
※各設備の普及促進のための補助金制度など、国策として運用される。
※省エネ性能の技術革新を進めるためのトップランナー方式を家電製品などに採用する。
戸建て住宅の「省エネ化」の動向
1、スマートハウス・エネルギーマネジメントされた住宅(家庭内のエネルギーをHEMSにより制御された住宅)
① 家庭内における「省エネ」・・・エアコンや給湯器、照明器具や家電など、できる限り「省エネ」な機器
を利用。
② 家庭内における「創エネ」・・・太陽光発電や燃料電池などエネルギーを創る「創エネ」な機器を利用。
③ 家庭内における「蓄エネ」・・・家庭内用蓄電池や電気自動車搭載の蓄電池など「蓄エネ」な機器を利用。
※「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」をHEMSを利用し効率的に電気を制御します。
2、住宅の省エネ対策
① 住宅躯体・開口部の「省エネ」
・冬場は室内の暖かい空気が逃げないこと。
・夏場は室外から熱い空気が室内に侵入しないこと。
※「断熱」「気密」「日射遮へい」の対策・・・冬場は逃げ出す熱の48%が窓から。
夏場は室内に入る熱の71%が窓から。
(1)「断熱」・・・窓、壁、床、屋根などを通して、住宅の内外に熱の移動を少なくすることが重要。
(2)「気密」・・・隙間があると空気が出入りし熱が移動する。熱の移動を少なくすることは重要だが、
気密性能だけを高めると、室内環境に悪影響を及ぼす。適切な換気対策も必要。
(3)「日射遮へい」・・・太陽の光などの日射熱を季節によりバランスよくコントロールすることが必要。
② 住宅の断熱性能の意味
(1)室内環境と断熱性能
・外気温5℃と同じ温度の室内が20℃になるまでの所要時間・・・断熱の部屋は約25分
非断熱の部屋は約100分
・冬季、室内の天井付近と床付近の温度差・・・断熱の部屋は約3℃以内の温度差。
非断熱の部屋は約10℃以上の温度差。
(2)居住者の健康と断熱性能
・ヒートショック(心筋梗塞や脳血管障害)・・・温められた身体が急激な温度変化で悪影響を及ぼすことで
発生。
※トイレや洗面、浴室などで多く発生します。交通死亡事故の3倍以上。
・結露・・・カビやダニの発生源になり、不衛生な環境になります。
・換気対策・・・近年は24時間換気システムという、強制的に室内の空気を機械的に入れ替える換気設備が
義務化。
長期エネルギー需給見通し(平成27年度7月 経済産業省より一部抜粋)
1、長期エネルギー需給見通しの位置づけ
★エネルギー政策の最も大切なところ
(1)安全性(Safety)・・・原子力については世界最高水準の規制基準に加え、自主的安全性の向上、
安全性確保に必要な技術、人材、発展を図る。石油、ガスとの設備の安全性
の向上に取り組む。
(2)安定供給(Energy Securty)・・・平常時のみならず、危機時にあっても安定供給が確保される
多層化・多様化した需給構造を実現する課題を持つ。
(3)経済効率性の向上(Economic Efficiency)・・・電力コストを現状よりも引き下げることを目指す。
(4)環境への適合(Environment)・・・欧米に引けをとらない温室効果ガス削減目標を掲げ世界をリード することに貢献し長期エネルギー需給見通しを示すことを目指す。
※エネルギー基本計画を踏まえ、2030年度のエネルギーの需給構造の見通しを策定する。
※徹底した省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電の効率化を進める。
2、2030年度のエネルギー需給構造の見通し
(1)エネルギー需給及び一次エネルギー供給構造
・徹底した省エネルギーの促進により、石油危機後並みの大幅なエネルギー効率の改善を見込む。
・東日本大震災後に大きく低下したエネルギー自給率を24.3%程度に改善する。
(2)電源構成
・自然条件等を踏まえ、各電源の個性に応じた再生可能エネルギーの最大限の導入を行う。
・地熱・水力・バイオマス発電は、環境面や立地面当の制約を踏まえつつ、実現可能な最大限まで導入する。
・自然条件により変動の激しい、太陽光・風力発電は国民負担抑制とのバランスを踏まえつつ電力コストを
現状より引き下げる範囲で最大限導入する。
・火力発電については、高効率化を進め環境負荷の低減と両立しながら活用する。
・石油火力については、ディマンドリスポンスを通じたピークシフト等を図り、必要最小限を見込む。